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歌う医学博士・Hideが行く
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総集編5. 医療への株式会社参入考(完全版)
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今回は、Vol.48、Vol.49と、Vol.51の内容を、ブラッシュアップして一つにまとめておく。
小泉のクサレ首相も、またいつ何時医療への株式会社参入(以下単に「会社参入」)の
話を、しょうこりもなくゾンビのように復活させくさるか分からないので、
ここでまたまとめておくのは、意味のない事ではないだろう。
そういうわけで、いざスタート!
以前鴻池大臣がTVタックルに出て、会社参入がお流れになった事を、
残念そうに言っていた。彼ら賛成派の言い分としては、そうすると医療機関側は
サービス向上にも努めるし、また彼の言う所によると、「ガンを治す」放射線治療の
高価な機械も買えるそうである。
本当にそうだろうか。
まあ「ガンを治す」とか、放射線科医の口車に乗って吹聴するところが、
すでにこの人の、医療に対する認識のレヴェルを示しているのだろう。
会社参入というと、僕は以前いた、あるどうしようもない病院の事を想い出す
(仮に、「K病院」としよう)。
以前言った某政党系の病院(以下「B病院」)が、社会主義だか共産主義に
毒されているとしたら、このK病院は拝金主義に毒されていた。
病棟は定額制の老人病院だったので、とにかく何もしない方が儲かるという事で、
必要な検査もやらず薬も出さず、ほとんど収容所状態だった。
その一方で、外来はいろいろすればするほど請求出来るので、とにかく
要らない薬や点滴が、当たり前のようにデカい面をしてのさばっていた。
検査もまた然りである。
まあそういう要らない点滴をするのが、当たり前のように思うレヴェルの患者さんが、
集まっていたということだろう。あるドチンピラヤクザなどは、ただのカゼなのに、
「点滴に抗生剤を入れろ」とあろう事か僕に命令し、僕がキッパリはねつけると、
逆ギレして外来で暴れだした!!! ちなみにこの時警察を呼んだが、結局来なかった。
和泉市の警察は、税金泥棒だという事がよく分かった(まあもちろん、そんな
クサレ警官ばかりでもないだろうが)。
B病院の名誉のために言っておくが、ここはハード面と、一部の医者は優秀な病院だった。
ただ看護婦さんの大多数と、かなり多くの医者と、そして大多数の患者さんについては
コメントは避けたい。
僕はK病院に、B病院の内科外来に決してひけを取らない外来を作ろうとしたのだが、
すぐにそんな事は夢物語だと分かった。医療は、医者だけでやるものではないのだから。
ここの病院を傘下に収めていた、某医療法人(以下「Tグループ」)の理事長が、
これがまあほとんど「白衣を着た病院買収屋」という感じのオッサンで、前述の手抜きや
点滴漬けを強力に推し進めていた。
この理事長さん、週一回はこちらに「医局会」とやらと夜診をやりに来るのだが
(Tグループの総本山の病院は、大阪市内にあった)、医局会と言っても、他の病院で
やっているような、医療に関係のある話はごくわずかで、大体は、病院買収関係の来客と
会うのに忙殺されていた。
で大切な事は、大体夜の、酒を飲みながらの夜の「会議」で決まっていたようだ。
僕は前の日当直だったし、4時で帰っていたのでどんな集まりかは知らないが。
ちなみにこの人は、外来診療は「人気商売」「客商売」で、「とにかく患者さんには
ヘイコラしていればいい」という、僕とは相容れない医療観の持ち主だった。
もちろん外来診療には、ある程度の客商売的要素は必要だ。患者さんがまず
来て下さらないことには、その方に対して医療は出来ないのだから。
しかし僕らの仕事には、「商売」と決して割り切ってしまってはならない部分がある。
少なくとも僕はそう信じている。
例えばあなたが、お菓子屋さんだとしよう。お客さんが、「チョコレート10個おくれ」
「20個おくれ」と言ってくれば、その通り売ってあげればいい。お客さんが、
自分のお金で何を買って何を食べようが、法律に触れない限りはその人の自由なのだから。
またあなたはお客さんの健康について、何の責任もないのだから。別にお客さんが
チョコレートの食べ過ぎで肥満して、成人病になってもあなたの知った事ではない。
お客さんも喜ぶし、自分も儲かるのだから誰も困りはしない。
ところが僕ら医者は、そういうわけには行かぬのだ。「要らない薬や点滴を出してくれ」
とか、「要らない検査をしてくれ」と言われても、少なくとも僕は困る。
理由その一。保険診療の場合は、患者さんは3割しか僕らの「お客さん」ではないからだ
(3割負担の方なら。生保の方ならゼロ割だ)。「お客さん」の残りの7割は、
国や自治体や健康保険だ。ひいては、その税金や保険料を支払って下さっている、
国民の皆様だ。
だから医者というのは、公のお金を動かしている点と、そこから収入を得ている点で、
たとえ私立の医療機関でも公務員的性格を持っている(もちろんその事に
気づいていないか、または気づいていない振りをしている医者もゴマンといるが)。
よって保険診療の場合、要らない薬や点滴や検査等を要求するのは、社会の迷惑である事を
肝に銘じて頂ければと思う(まあこのメルマの読者の方には、それが分からないような方は
いないはと思うが)。大人なら他人の迷惑を考えるのは、常識というものだろう。
ちなみに以前言った、M病院というボッタクリ病院では(
http://www.helio-trope.com/
の、「メールマガジンバックナンバー」の、Vol.40を乞うご高覧)、老婦人が要らない点滴を
要求したので、「それは不要だ」と言うと、「息子」と自称するチンピラヤクザ
(あるいはヤクザまがい?)が、あろう事か診察室に乱入してきて、「こちとら客だぞ」と
威張り始めた。ちなみにこやつは生保だった。どこが客だとぬかすのだろうか。
僕らが汗水たらして納めた税金で、医療を受けさせて頂いている身分ではないか。
話を元に戻そう。理由その二。たとえ保険診療でなくても、僕は要らない薬は
出したくない。と言うのは、副作用の責任は、僕が負わなければならないのだから
(まあ今のところ、僕は自由診療はしていないが)。
勘違いされている方もいらっしゃるが、医者が薬を出すという事は、その人の健康について
責任を持つという事だ。僕が診察なしで薬を出さないのも、それが理由だ。
さて、振り出しに戻ろう。
もし会社参入が全国的に始まったら、この国の医療は一体どうなるだろうか?
おそらく日本中の病院が、K病院のようになるだろう。そして保険制度は破綻し、
優秀な人間は誰一人として、医者になりたがらなくなるだろう。そして医療は、
荒廃を極めるだろう。
何しろ私企業は、利潤を追求するのが使命なのだから。株主には、配当を出さねば
ならないのだから。
いや、K病院よりもっとひどくなるかも知れぬ。理事長は確かに、「白衣を着た
病院買収屋」だったが、それでもまだ白衣を着ている分、ソロバンのはじき方が
ひょっとしたら違うかも知れぬ(これはH病院(
http://www.helio-trope.com/
の、「メールマガジンバックナンバー」の、Vol.28を乞うご参照)や、M病院(Vol.40を
乞うご参照)の院長といった、「白衣の商人」たちについても言える。いずれも
僕にとっては、最高の反面教師たちだが)。白衣を着ていない商人たちは、
もっとシヴィアにソロバンをはじくかも知れぬ。その結果、救急医療や小児科のような
不採算部門は、情け容赦もなく切り捨てられるかも知れぬ。
だから僕は、会社参入には反対なのだ。
ちなみにその後、理事長は脱税で、塀の中の住人になったと風の便りに聞いた。
まあ因果応報だろう。
以上でおしまい。お粗末でした。