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     歌う医学博士・Hideが行く
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  Vol.99. 医療の荒野を耕そう(その4)
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こんにちは。Hideです。


まずは前回のアンケートにご協力下さった方々、どうも有り難う。

おなじみcaptainUMEさんからは、

>2月の5日間は南洋の島行きでしょうか?ぴよさんもお元気そうですね,

とのメッセージも頂いた。重ねて有難うございます。南洋ではなく、ユーラシア大陸の
西の端の島国の首都まで(笑)、観光旅行でした。

やっとの事で、時差ボケからも立ち直った。9日・10日とも病院で仕事だったので、
その前夜は睡眠剤を飲んで寝たのだが、11日は祭日なので、10日夜はそろそろ
睡眠剤に頼らず寝ようとしたところ、2時間しか寝られなかった(笑)。おかげで
昨日は眠くてしょうがなかったのだが、昨夜しっかり寝られたのでやっと立ち直れた。

僕は睡眠の専門家ではないのでよく分からぬが(普通は神経科の領分だ)、睡眠剤の
服用中は(旅行中は手放せなかった)、不必要に寝ていたのかも知れぬ。
読者の皆さんの中に、そちらがご専門の先生がもしいらっしゃったら、

hide@helio-trope.com

まで教えて下さい。

ちなみに汚い話だが、排便のサイクルも変わるものだという事も分かって面白かった。


それでは、早速本題としよう。今回でけりをつける。

復習しておこう。うちの病院の糖尿病外来が、具体的にどうひどいのかと言うと、

1.糖尿病外来のくせして、何ヶ月もヘモグロビンA1cを測っていない

2.患者さんに、カロリー制限のための栄養指導を全くやっていない人がゴマンといる

3.何ヶ月も血糖と、ヘモグロビンA1c以外の採血をやっていない

4.患者さんに、「ヘモグロビンA1cって、どんな検査ですか?」と
訊いても、まともに答えられた方がいない

5.患者さんに、「糖尿病は何故コントロールしないといけないんですか?」と訊いても、
100点満点の回答が返ってきたためしがない

(まあこの二つは、患者さんの記憶力に問題があるという事が分かったが。
ただそれならそれで、患者さんにパンフレットを手渡すとかすべきだ)

6.眼科にまだ行っていない方が結構いらっしゃる

7.おなかのエコーを撮っている人など皆無に等しい

8.腎臓系に異常がある方でも、ベータ2マイクログロブリンという、詳しい検査を
全然やっていない

というところだろう(とりあえずは)。

これらが間違いである理由は、4.までは前回までに言ったので、今回は5.から
行こう(4.までは、僕のHP

http://www.helio-trope.com/

の、「メールマガジンバックナンバー」の、Vol.9697を乞うご高覧)。

まとめて、3つ行く。


5.患者さんに、「糖尿病は何故コントロールしないといけないんですか?」と訊いても、
100点満点の回答が返ってきたためしがない

6.眼科にまだ行っていない方が結構いらっしゃる

8.腎臓系に異常がある方でも、ベータ2マイクログロブリンという、詳しい検査を
全然やっていない

→例によって、W先生解説から引いておく(以下引用)。

そもそも血糖コントロールがなぜ大切なのかと言う事ですが、それは
「風邪は万病のもと」ならぬ「糖尿病は万病のもと」だからです。コントロールが
良くないと、身体中の血管が傷んで来ます。「糖尿病は血管の病」とも言えるでしょう。
糖尿病に特有なのは細い血管の障害で、目−−正確には「網膜」と言う光を感じる所−−や
腎臓、神経などがだめになって行きます。目がだめになると失明しますし、腎臓だと
週に3回3時間人工腎臓につながれ、好きなものもなかなか食べられなくなります。
また動脈硬化も起こりやすく、ひいては心臓発作や脳卒中に結びつきます。
こういった害を、「合併症」と言います。またガンも発生しやすいですし、
いろいろなばい菌による病気も起こります。但しコントロールが良ければまず大丈夫です。
以上まとめますと、

「糖尿病は決して怖くない(ただしコントロールが良ければ)」と言う事です。

(引用終わり)

つまりまとめると、糖尿病に特有な合併症は目−−正確には「網膜」や
腎臓、神経に起こり、特有でないのは動脈硬化、ガン、ばい菌による病気(医者の
言葉では、「感染症」と言う)という事だろう。特に大切なのは、網膜、腎臓、
動脈硬化の3つだ。

ところが患者さんに訊いてみても、この3つを全部言えた方がいない。網膜症と、
あと「足が腐る」(これは神経と感染症、動脈硬化に関係がある)の二つだけ言える方は
結構いるが。多分それだけしか、医者が説明していないのだろう。全く、
何をか言わんやである。

もちろん前述の通り、患者さんは説明した事を往々にしてすぐ忘れる事が、
自分の経験から分かったので、W先生解説は、説明した事を忘れた方にはもう1回、
しつこく手渡すようにしている。


7.おなかのエコーを撮っている人など皆無に等しい

→再び、W先生解説から(以下引用)。

膵臓の病気のためインスリンの分泌が減る事も
有りますので、一度はおなかの超音波(エコー)もしておきましょう。

(引用終わり)

ちなみに膵臓の病気の中で、決して見逃してはいけないのは膵臓癌である。
もちろん見つけた時点では、往々にして手遅れだったりもするのだが。


各論はこのくらいにして、結びとしよう。

そういうわけで、僕の外来には、やる事が山積みだ。

まず病名をリストアップせねばならぬし(糖尿病外来なので、糖尿病は大体皆さん
お持ちだが、他の病気をお持ちの方も多数いらっしゃる。高血圧や高脂血症が多い)、
今までのデータにも目を通さなくてはならない。それを、カルテにも書かねばならぬ。
最初の診察では、お体を上から下まで診察せねばならないし、パソコンに(薬と検査は、
パソコン入力だ)ヘモグロビンA1c毎月の件を入れねばならぬ。栄養指導や眼科受診の
有無を聞き取って、まだの方には用紙や紹介状(しかもうちの病院では、眼科は
外来患者さんは診てくれないので、院外用の長い紹介状!)を書かねばならないし、
ヘモグロビンA1cの意義や糖尿病コントロールの意義をお分かりかどうかテストして、
ほとんど全ての方には説明せねばならない。

そういうわけで、外来を始めて半年経ったが、エコーまで手が回っていないのが実情だ
(どの患者さんも、毎月僕の所にいらっしゃるわけではないし、5週や6週や、中には
2月に1回しか受診されない方もいらっしゃる)。動脈硬化のチェックのため心電図も
したいが(心臓に行く動脈に、硬化があると分かることがある)、それもほとんど
手がついていない。

ある患者さんなどは、「2時間半待たされた。あんたの外来は、他の先生に比べて
待ち時間が長すぎる」みたいな事をおっしゃって下さった。僕が「私も(年上の
患者さんには、僕はこの一人称を使っている)患者さんのために必要な時間しか、
ここでは使っておりません。それでもしご不満なのであれば、他の先生にかかられるか、
そうでなければいっそのこと、他の病院に行かれるかしかないと思います」と言っても、
同じ事をテープレコーダーのように繰り返しておられた。

これは、まさに「恩を仇で返す」行為だ。

もし「人は適当でいいけども、自分はちゃんとやって欲しい」という事だったら、
それは虫が良すぎるというものだろう。

言っておくが、僕は「医者だから患者さんの命を助けるのは当たり前やないか」とか、
「お金もらってるんやから仕事するのは当然やろ」とかおっしゃる方とは、話はしたくない。

高いレヴェルの医療を提供する医者には、それだけの感謝と尊敬を得る権利がある
(少なくとも、僕はそう思っている)。

こういう「恩を仇で返す」患者さんは、他にもいる(ちなみに、どちらもB病院だ)。

お一人はVol.15で言った(

http://www.helio-trope.com/

の、「メールマガジンバックナンバー」を乞うご高覧)、トンデモ医者に肝臓ガンを
見落とされて、手遅れにされた人だ。

僕はこの医者の外来を引き継いで、肝硬変と肝ガンを見つけたのだが、一回目の入院の時は
僕が担当医になった。

しかし二回目の入院の時は、何故か僕の担当を断わった(そのときの担当医に理由を
訊いたが、「分からん」の一言だった)。

で、上司がバカだから、僕を責め立てたのだ。

僕はこの患者さんに、初めてまともな医療をした医者ではないか。一体僕に、
何の恨みがあるのだと言いたくなった。

もうお一人は、胃癌の手術(亜全摘、つまり3分の2くらい胃を切る手術)後の
患者さんで、残った胃に出来た癌を、僕が胃カメラで発見した人だ。

つまり僕は、いわばこの人の「命の恩人」なわけだ。

ところがこの人は、「残念ですが、協議の結果胃を取らざるを得なくなりました
(胃カメラによる治療なら、手術と違って胃は取らなくていい)」との僕の言葉を
不満として、同じ系列の他の病院に移ったのだ。

ならどう言えばいいのだ。

まさか、「いやー、胃を全部ばっさり取りましょう! よかったですな! 
ワッハッハ!」と言えと言うのではあるまい。

胃を全部取ると、うまいものは食べられなくなるし、ある種の貧血とかも栄養の
吸収不良のために起こるし、「ダンピング症候群」という症状も起こるし、
とにかく大変なのだ。

で例によって上司はバカだし、外科の医者も負けず劣らずバカだから、僕をご叱責下さった。

全く、バカは死ななきゃ治らない(死んでも治らないか)。


次回は100号記念企画、次々回は久々に音楽ネタとしよう。乞うご期待。



最後まで読んでくれて、本当に有難う。ご意見、ご感想、ご質問等は

hide@helio-trope.com

までどうぞ。「こんな話が聞きたい」というリクエストも大歓迎だ。
(ここで紹介させてもらう事が有るので、それを希望されない方は
乞うご明記)


それとくどいようだが、このメルマのバックナンバーが、僕のHPで読めるので、

http://www.helio-trope.com/

の、「メールマガジンバックナンバー」を乞うご高覧。デハマタ。