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歌う医学博士・Hideが行く
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Vol.97. 医療の荒野を耕そう(その3)
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こんにちは。Hideです。
まずは前回のアンケートにご協力下さった方々、どうも有り難う。
oldseaman さんからは、
> A Happy New Year
とのメッセージも頂いた。重ねて有難う。これまた重ねて、新年おめでとうございます
(「まだ正月気分なのか」と言われそうだが)。
今日は例の往診患者さんの、臨時の往診がまた入ったので(具合が悪いようである)、
またスタートが遅れた。そういうわけで、前ふりはこのくらいで本題としよう。
前回の復習をしておこう。うちの病院の糖尿病外来が、具体的にどうひどいのかと言うと、
1.糖尿病外来のくせして、何ヶ月もヘモグロビンA1cを測っていない
2.患者さんに、カロリー制限のための栄養指導を全くやっていない人がゴマンといる
3.何ヶ月も血糖と、ヘモグロビンA1c以外の採血をやっていない
4.患者さんに、「ヘモグロビンA1cって、どんな検査ですか?」と
訊いても、まともに答えられた方がいない
5.患者さんに、「糖尿病は何故コントロールしないといけないんですか?」と訊いても、
100点満点の回答が返ってきたためしがない
(まあこの二つは、患者さんの記憶力に問題があるという事が分かったが。
ただそれならそれで、患者さんにパンフレットを手渡すとかすべきだ)
6.眼科にまだ行っていない方が結構いらっしゃる
7.おなかのエコーを撮っている人など皆無に等しい
8.腎臓系に異常がある方でも、ベータ2マイクログロブリンという、詳しい検査を
全然やっていない
というところだろう(とりあえずは)。
これらが間違いである理由は、1.は前回言ったので、今回は2.から行こう。
2.患者さんに、カロリー制限のための栄養指導を全くやっていない人がゴマンといる
→再びW先生解説から、一部引こう(以下引用)。
現在の医学界での糖尿病の定義は、大体こんな所です。
「インスリン作用の絶対的または相対的な不足により起こる、高血糖を中心とした
種々の代謝異常」
どうかここで読まれるのを止めないで下さい。これだけで済ます気はもちろん
ございません。この中の言葉をーつーつ解説致しましたら、糖尿病の本体に迫って行けると
思えばこそです。
まず「インスリン」とは、「血糖」即ち血液の中のブドウ糖(砂糖ではありません)を
減少させる「ホルモン」です。
(中略)
糖尿病の患者さんではインスリン作用が不足しているのですから、無駄使い
ー―過剰に栄養分(特にカロリー)を体に取り込み、インスリンの負担を増やす事−−は
良くないのはお分りですね。
「甘い物を食べると糖尿病になる(あるいは悪くなる)」とお考えの方もいらっしゃる
ようです。もちろん甘い物の食べ過ぎは良くは有りませんが、甘くない物でも同じ事です。
1日の制限力ロリーを指示致しますので、どうかその範囲内でお召し上がり下さい。
(引用終わり)
僕は、患者さんには最近こう説明している。
「糖尿病の治療は、家のようなものです。家族が二人や三人なら、家は一階ですみますが、
子どもが生まれたり両親を引き取ったりして、四人五人と増えてきますと、二階に
しなければ手狭になります。さらに妹が出戻ったり、兄さんが破産したりして、
六人七人と増えれば、それでもまだ狭いので、三階にしなくてはなりません。」と。
これが何の例えかと言うと、家族が増えていくのは、糖尿病の程度が悪化していく事
(あるいは最初から悪い事)、一階と二階と三階は、それぞれ食養生(カロリー制限)や
場合により運動、飲み薬、そしてインシュリン注射だ。ただ糖尿病が家と違うところは、
二階でダメなら二階をどけて、三階を一階の上に置くことだが。
ちなみに、カロリー制限をせずに飲み薬やインシュリンをやるのは、「一階を作らずに
二階や三階を作るようなものです」と、僕は患者さんに説明している(事実その通りだ)。
3.何ヶ月も血糖と、ヘモグロビンA1c以外の採血をやっていない
→例によって、W先生解説から一部引こう(以下引用)。
「種々の代謝異常」ですが、代謝とは栄養分が私たちの体内で分解されたり、
逆に合成されたりする事です。先程申しました、糖の貯蔵--この際糖はさらに
大きい分子に合成されますー一や分解も代謝です。しかし糖尿病では、糖だけでなく
脂肪やたんぱく質の代謝も異常をきたします。ですから血糖さえコントロールすれば
それでいいというものではありません。必ずコレステロールなども定期的に測りましょう。
(引用終わり)
完璧な解説だが、あえて付け加えれば、飲み薬やインシュリンを出している患者さんなら、
副作用のチェックも必要だ(糖尿以外の薬も出ている患者さんも入れれば、圧倒的大多数に
なるだろう)。そのためには肝機能や腎機能、貧血検査もせねばならない。肝機能に
ついては、糖尿病の場合「脂肪肝」という、文字通り肝臓に脂肪がたまった状態に
なりやすいし、また腎機能は、糖尿病の合併症の早期発見のためにも必要だ。
4.患者さんに、「ヘモグロビンA1cって、どんな検査ですか?」と
訊いても、まともに答えられた方がいない
→W先生解説から(以下引用)。
コントロール目標は一概には言えませんが、是非ともクリアーしたいレベルは、
空腹時血糖140以下、随時血糖(普通食後2時間)200以下、あとヘモグロビンA1cと言う
最近1-2か月の血糖コントロールを示す検査が7.0%以下、また血液中の脂肪正常、
標準体重の維持、合併症の進展が無い事などです。合併症の検査にもご協力下さい。
(引用終わり)
つまりこれだけの検査をしないと、糖尿病を「診ている」とは言えないという事だ。
そしてその結果を説明しないと、患者さんに治療に参加して頂けないという事だ。
糖尿病に限らず慢性病は全部そうだが、患者さんの参画なしには治療出来るものではない。
中島らもさんが言っていた(正確には、小説に出てくる医者に言わせていた)が、
医者というのは、駅まで行く道を教えてあげるタバコ屋のおばあさんのようなものだ。
その通りにして駅までたどり着ける人もいるだろうし、したけれどもたどり着けない人も
いるだろう。あるいは最初から、駅まで行こうとしない人もいるかも知れない。
いずれにしても、駅まで一緒に行ってあげる事は出来ない。
ただこれは、5.についても言える事だが、医者だけが悪いと言えない面もある。
患者さんにも、やはり自分の病気の事くらいは、勉強して頂きたいものだ。
その気になれば、本屋さんにはいくらでも、素人さん向けに病気を解説した本があるはずだ。
とりあえず僕は、患者さんにはW先生解説をコピーして、説明に使用しては配布する事に
した。
ちなみに、W先生の数値は少し古い(昔の資料だから仕方ないが)。最近学会では、
空腹時血糖は130以下、随時血糖(食後2時間)は180以下、あとヘモグロビンA1cは
6.5%以下に抑えるべきだという意見が主流になって来ている。
ただ医者も人間だから、つい慣れ親しんだ数値を、治療目標にしてしまいがちなのだが。
続きは次回。悪しからず。そして、乞うご期待。
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