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     歌う医学博士・Hideが行く
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  総集編2. 日本の医療に未来あれ!(完全版)
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今回は、Vol.83. Vol.84 の本題を、ブラッシュアップして一つにまとめておく。

鈴木厚先生の本「日本の医療に未来はあるか──間違いだらけの医療制度改革」
(ちくま新書)の話をしよう。これは机上の空論や理想論ではなく、現場を
知っていらっしゃる先生が書いている本なので実にいい。医療について、
ご自分の意見を確立したいと思っていらっしゃる方には、必読の書だろう。

この本の要旨は、一言で言うと、

「日本の医療界の諸悪の根源は、国家(ネアリーイコール政治家)が、医療にお金を
かけていない事である」

という事だ(まあそういう政治家を選んでいるのは、他ならぬ国民なのだが)。

「諸悪」とは、医療事故、医者の説明不足、いわゆる「3時間待ちの3分間診療」等である。

「お金をかけていない」証拠として、鈴木先生は以下のようなところを挙げて
いらっしゃる(あくまで抜粋なので、もっと詳しく知りたい方は、700円(税抜き)と、
内容の割には決して高くはないと思うので、本を買おう)。お忙しい臨床をこなしながら、
本当によくここまで勉強されたと、ただ感心するばかりだ。僕流に要約しておこう。

国民医療費は年間30兆円で、これは一見すごいようだが、驚くなかれ公共事業費の、
わずか約3分の1だ(85兆円)。ちなみに欧米では逆で、建設投資は医療費の約半分だ。
つまり日本は欧米の約6倍、人命を軽視している事になる。

一方国民が政府に望む事の第1位は、常に医療・年金、福祉の充実だ。道路整備なんかは、
常にベストテンの圏外だ。いかに政治家が国民を無視しているかが、これではっきり
するのではないだろうか。

また30兆円は、パチンコ産業の上がりと同程度で、国民年金(40兆円)より安い。
葬式産業でさえ15兆円だ。おまけに政府は、銀行救済には70兆円使っている。
もう一つついでに言うと、30兆円は日本の土地全体の価値の100分の1
(3114兆円)、金融資産の40分の1(1200兆円)、個人保険金額の50分の1
(1400兆円)だ。

鈴木先生のお言葉を、ここで一回、そのまま引いておこう(以下引用)。

「国の予算や資産を、自分の家の家計に当てはめてください。パチンコをしたいから、
家を建て直したいから、預貯金をとり崩したくないから、りっぱなお墓を建てたいから、
そのため家族が病気になっても病院に連れていかない。このようなことはあり得ない
ことです。資産を全部なげうてば200年分の国民医療費に相当するのです。(中略)
医療費が高いと言う前に、パチンコを止め、孫にやっている年金からの小遣いを
減らすべきではないでしょうか。」

このように国家が、医療にお金をかけていない結果、国民一人あたりの医療費は、
世界で第7位だ(アメリカは第2位)。

えっ?「世界第7位なら、ベストテン圏内だしいいだろう」って?

国の経済力を考えてみよう。経済力の指標もいろいろあるが、GDPは一つの目安だろう。

対GDP比にすると、世界第19位に落ちてしまう(アメリカは1位だ)。

かつ日本は、国民皆保険でかつ医療機関にフリーアクセスなので、医療機関の敷居が低く、
その結果外来、入院ともに、欧米の4倍の患者さんがいる。

そういうわけで、患者さん一人あたりの医療費は、日本は世界でも最下位だ。

その一方で日本の医療水準は、WHOが認める通り世界一だ(アメリカは37位)。
これは平均寿命、乳幼児死亡率、周産期死亡率等が証明している。

ちなみにアメリカでは、貧困のため4500万人が保険に入れず、かつ民間保険が医療を
コントロールしていること( "ER" とか、そういうアメリカの医療ドラマを、
ご覧になったことがあるだろうか? まさにその通りだ。こんなことだから、
37位なのだろう。もっと詳しく知りたい方は、「患者残酷物語米国版」、

http://www.asahi-net.or.jp/~rp8i-fkm/managedcare.html

を乞うご高覧)、またイギリスでは、指定された家庭医にかからないと保険がきかず、
専門医にかかるのは数ヶ月待ちが当たり前なので、癌が手遅れになったりするのが
社会問題化していることは、忘れるべきではないだろう。

この日本の医療の、世界一のコストパフォーマンスを誰が支えているのかと言うと、
それは医療関係者の皆様の(とは言っても、僕もそのハシクレだが)尊い献身であるのは、
疑いないところだろう。

「3時間待ちの3分間診療」とか、世間では無責任に批判しているが、前述の通り
日本の医療機関の外来には、アメリカの4倍の患者さんが来る(ちなみに人口当たりの
入院ベッド数も、アメリカの3倍以上だ)。しかも人口あたりの医師数は、
日本はアメリカの3分の2だから、日本の医者は、アメリカの6倍の外来患者さん
(本には「8倍」とあるが、「6倍」の間違いだろう)、5倍の入院患者さんを
診ていることになる。

これで、「3時間待ちの3分間診療」にならない方がおかしいだろう。

またアメリカ直輸入の「インフォームド・コンセント」など、一体どうやって
実行すればいいのか、厚生省のおエラい方々に、是非ともご高示頂きたいものだ。
医者の数を5倍や6倍に増やしてから、言ってくれと言いたくなる。

医療事故だって、もっと医者が増えて、徹夜の当直明けに外来や手術をするような、
非常識な医者の勤務体制がなくなれば(まあそれを当たり前だと思い込んでいる
(あるいは思い込まされいる)、政府にとってはこの上なく有り難い、愚民医者も
いるのだが)、そしてもっと看護婦さんが増えて、仕事にダブルチェックや
トリプルチェックをする余裕が出来れば、もっと減らせるのだ。

医療の現場がこんな状況なのに、この上医療費を削ろうとする、
どこかの内閣のやる事など狂気の沙汰だろう。

次の参院選では、そのあたりの事も頭に置いた方がいいのかも知れない。