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     歌う医学博士・Hideが行く
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  総集編1.  渡辺美里論集・その1(完全版)
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今回は、Vol.57. からVol.59. までの本題を、ブラッシュアップして一つにまとめておく。

僕の歌における、技術と心の最大の師について語ろう
(とは言っても、直接教えて頂いた事はないが)。


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T.我が「アイドル」、渡辺美里


僕は、時々思うのだ。

もしかしたら、渡辺美里という人は、神様が僕ら信心に乏しい人間を惑わすために、
この地上に遣わした、魔女なのではないだろうかと。

ここまで読んで、僕に抗議のメールを書こうとしたMISATOフリークの君!

そうしてくれてもいい。だがその前に、出来ればもう少しだけ付き合って欲しい。

何しろ僕は、彼女のアルバムと先行シングルは全てチェックし、コンサートにも年1回は
必ず足を運ぶ、多分自他ともに認めるMISATOフリークなのだから。

但し僕は、西武球場に行った事は残念ながらない( ’04註: ’04年の8月7日、
僕は初めて、19回目の西武球場に行った)。という事は、美里さんの確実に
何割かを、僕は理解しようとしていないという事だ。その点では、西武球場に足を運ぶ
人達には(特に関東から遠い人には)、MISATOフリーク度では負けるだろうが。

話を戻そう。もし美里さんが、神様が遣わした魔女だとすれば、デビュー当時の彼女の
ヴォーカリストとしての未完成さと、それを補って余りあるバックのアレンジや詞や曲の
クオリティーの高さも、その後3年間のヴォーカリストとしての急成長も、さらにその後の
円熟ぶりも、全て天の配剤という事で納得が行く。

つまり彼女は、アレンジや詞や曲でまず僕の耳を惹きつけた。そしてやがては、
その声で僕を魅了出来るようになった。その一方で、きっとそのルックスで、
他のファンからはアイドル的な人気も得たに違いない(ただそういう人達は、
やがて離れて行ったかも知れぬが)。

そう言えば中島らもさんが、こんな事を言っていた(細かい言い回しは忘れたが、
要旨はこんなところだ)。

「アイドルは、最初から歌がうまくてはダメなのだ。ファンは自分が知らない所で、
アイドルが実力をつけて来るのを許さない。ファンに見える所で、ファンに見守られて、
成長して行かなくてはならぬのだ。ファンにとっては、自分がその成長を一緒に
体験できるのが快感なのだ。」と。

もしそうだとすれば、初期の美里さんは僕にとって、まさに「アイドル」だったのかも
知れない。



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U.ジャニスに魅せられて


もし僕が、美里さんのファン代表に指名されて、「渡辺美里という人は、どんな
ヴォーカリストだったのかを、5000年後の人類に伝えたい。ついてはMDに1曲だけ
入れて、タイムカプセルに入れたいので、その曲を選んでくれ。」と言われたら、
彼女の数多いレパートリーの中から、どの曲を選ぶだろうか。

やはり、これしかないだろう。

"Lovin' You" だ。

僕は、美里さんは最高のバラード・シンガーだと思っている。もちろん
「太陽は知っている」とか "Welcome" とか(どうもアルバム「ハダカノココロ」の
ナンバーばかりだが)、そういう速いナンバーも、勿論いいに決まっているのだが、
彼女の声の素晴らしさが一番生きるのは、やはりバラードナンバーだろう。

歌い手は、まず声で聴き手を魅了出来なくてはならぬ。かのリンダ・ロンシュタッドが、
昔何かの雑誌(週刊プレイボーイだったかも?)のインタビューで、こう訊かれた。

「あなたのチャームポイントは?」

彼女答えていわく、「声。」

この時僕は、「あーこの人は、ほんまに骨のズイまで歌うたいやなー!」と思ったものだ。

美里さんに話を戻そう。彼女の声は気高く、力強く、それでいてとても優しく、繊細だ。
きっと彼女はとても純粋で、真剣で、芯が強く、優しく、かつ細やかな心遣いが出来る
人なのだろう。それが、声に出ているような気がする。シルクの滑らかさと、
コットンの心地よさを兼ねそろえた声だ。

彼女のバラードの数々を聴いていると、「僕は果たして、この素晴らしい音楽を
聴くのにふさわしい人間なのだろうか?」と、心配になってしまう事さえある。

そのバラードナンバーの山脈の中で、ひときわ高くそびえ立つ最高峰が、
この "Lovin' You" だ。

もちろん「めまい」や "My Revolution 〜第二章〜" 、「素顔」や「十六夜の月
〜izayoino tsuki〜」も名唱だ。しかし美里さんは、知る人ぞ知るジャニスフリークで
あり、 "Lovin' You" はこのジャニス・ジョプリンへのデディケートナンバーなのだが、
その尊敬の気持ちが音楽の神様に届いたのか、天の配剤がこのナンバーに
効いているような気がする。

美里さんはこの曲を、2回レコーディングしている。1回目は '86年の
アルバム "Lovin' you" で、そして2回目は、'92年のアルバム "HELLO LOVERS" で。

しかしはっきり言って、後者の方が断然いい。前者は、デビュー後1年くらいしか
経っていない頃の録音なので、まあ止むを得ないところだろう(詳細は、
T.に書いた通りだ)。

こんな下らない文章を読んでいないで(!)、レコード店に行こう(レンタル屋さんも可)。
とにかく、 "HELLO LOVERS" を一度聴いてみて欲しい。きっとあなたにとって、
新しい世界が開けるはずだ。



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V.1986 〜あなたに出逢った頃〜


1986年は、僕にとって忘れられない年になった。たぶん生涯忘れる事はないだろう。

この年僕は、「ザ・ベストテン」という番組で(黒柳徹子さんと、何とあの久米宏さんが
(!)司会をしていた、歌謡曲のカウントダウン番組だ)、美里さんを初めて見た。

その時の体験を、僕はのちに歌にしている。「1986 〜あなたに出逢った頃〜」
という曲だ。

歌詞を書いておく。


誰とふざけても 誰とケンカしても
誰と朝を迎えても 忘れないぜ1986

何を拾っても 何を捨て去っても
何を抱き続けても 忘れないぜ1986

毎週見てた 木曜のTV show
画面が映し出した あなたの大きな目は

遠くの何か 追いかけるようだった
張りつめて歌う歌 心がふるえた

ときめいた日に 傷ついた夜に
あなたの言葉の意味が 分かる気がした

午前零時の 車の中で
聴いたLovin' You 涙にじんだ

誰とふざけても...(♪ここまで)


このとき美里さんが歌ったのは、彼女の代表曲の一つ、"My Revolution" だった。
「ザ・ベストテン」は、今でも年1回年末に復活するが、その際にこの時の録画を
やっていて、とても懐かしかった事がある。

ちなみに詞の中の "Lovin' You" とは、U.で言った通り、美里さんがジャニス・
ジョプリンにデディケートした、素晴らしいバラードナンバーだ( "HELLO LOVERS" と
いうアルバムに入っている)。くどいようだが、どうやったらこんなに気高く力強く、
それでいて優しく繊細な声が出せるのだろうと、並の(いや、多分それ以下の)
歌うたいである僕は、いつも思ってしまうのだ。まあ才能の差なのだろう。

もっと個人的な話をしていいだろうか。何せ昔の事なので、記憶は不確かになっては
いるが、あの頃僕は、美里さんの名前だけは聞いた事があったと思う。
確か、ティーンエイジャーで初めて、西武球場でコンサートをやったアーティストだと
いった事を、ビラで見たような記憶がある。だが彼女の歌を聴いたのは──
少なくともアーティスト名を意識して──、この時が初めてだった。

その頃彼女は、確かサードアルバム "Breath" をリリースした頃だったと思う。
僕は彼女の歌と言うか音楽全体と詞、いやことによると彼女全体に衝撃を受け、
確かファーストアルバムからサードアルバムまでを、当然すり切れるまで聴き込んだ
(当時は、まだCDは主流ではなく、アナログレコードの時代だったので)。

だが初めて彼女のコンサートに足を運んだのは、忘れもしない4枚目のアルバム
"Ribbon" を引っ下げての、今は亡き大阪球場でのコンサートの時だった。
その頃僕は、確か「イエローラビットクラブ」という、どこかの呼び屋さんの会員に
なっていた。そこで美里さんの、 "Breath" のプロモーションツアーの時のコンサートも
扱っていたように思うのだが、何で行っておかなかったのだろうと、今では激しく
後悔している。

この時以来、美里さんのアルバムは、彼女から僕への暑中見舞いになった。
そしてクリスチャンが毎週教会に行くように、僕は毎年彼女のコンサートに行くように
なった。

ちなみに "Ribbon" の頃は、年に3〜4回コンサートに行っていた記憶がある。
まだ学生の頃だったし(と言うと年がばれてしまうが)、時間もエネルギーも
あったからだろう。今では無理だが。

(蛇足。「1986 〜あなたに出逢った頃〜」は、僕のHP

http://heliotrope.s9.xrea.com/

「試聴室」で、さわりの部分は試聴可能だ。もしよろしければ。)



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