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     歌う医学博士・Hideが行く
                        */

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  Vol.17. あなたの主治医をやる気にさせる法・初診編(完全版)
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こんにちは。Hideです。

大雨で暇なので、約束通りあなたの主治医をやる気にさせる法・初診編の完全版を
作った。ここで公開しよう。

文中でも言っているが、転載・転送・プリントアウト・配布・引用等全てどうぞ
ご自由に。但し出典は明記して下さい。それではスタート!



あなたの主治医をやる気にさせる法・初診編(完全版)


前文:

えっ?「『やる気にさせる法』とは何事だ!どんな患者さんにも全力を尽くすのが
医者と違うんか!」って?

それは確かに正論である。しかし正論ではあるが、あくまで机上の空論に過ぎない。

どうしてと言われても、医者は患者さんを診療する機械ではない。感情を持った
生身の人間である。誰かが言った。

「士は己を知る者のために死す」と。

患者さんのために死ぬ気はないが、しかし礼儀正しくかつ分かっている患者さんの
ためには、言われるまでもなく全力を尽くしたくなるものだ。そういう患者さんが、
一人でもこの世に増えて欲しいという願いを込めて、これを書いた(もちろん
著作権がどうのこうのといったケチ臭い事は一切言わないので、くどいようだが、
転載・転送・プリントアウト・配布・引用等、全てどうぞご自由に。但し出典は
明記して下さい)。

僕は医者と患者さんというのは、患者さんの長寿と健康という目的を達成する
ための、イコール・パートナー(対等の協力者)だと思っている。であるからには、
お互いが目的の達成のために、ベストを尽くす義務があるはずだ(決して医者だけに
あるのではない...、少なくとも僕はそう思っている)。だからそれに賛成出来ない
方は、僕の外来には来ないで欲しい(とは言っても、偶然そうなってしまう事も
あるだろうが)。

また医療機関にもよるが、特に病院の医者はもれなく多忙と思っていい。だから
やはり、診療時間の節約に協力すべきであろう。あなた一人の外来ではない。更に
言えば、外来だけの医者でもない(入院患者さんの回診や処置・検査、病院や医者に
よっては在宅の患者さんの診療、、会議、研修や管理業務、また大学病院等では、
論文書きや学会発表の準備、実験、学生さんや研修医の先生の教育もある)。

もちろん最初からやる気のない医者もいるだろうが、そういうのは
「医者の選び方・ここがポイント」で見破れる。


大原則 (全体に通じる) :

「あなたの職業(学生の方ならあなたの専攻)の素人さんが、あなたに対して
『このくらいの敬意は払ってもらってもバチは当たらないだろう』と思うそれを、
あなたの主治医に払って欲しい」



1.準備編 

◇風邪引き、はらいた、膀胱炎等は開業医へ行く事(間違っても総合病院へ
行かないで欲しい! そういう患者さんばかりだと、総合病院が本来すべき仕事が
出来なくなるばかりか、患者さんたちも長い長い待ち時間に耐えねばならなくなる
(その人自身が待たされるのは自業自得かも知れぬが、他の人に迷惑だ))

◇軽症の方は時間内に受診頂きたい(どうしてと言われても、救急外来というのは、
次の時間内まで放置した場合、生命等に危険が及びかねない人のために有るのだ。
風邪で死んだ人はいない。病院はコンビニとは違うので悪しからず。

ちなみに軽症の判断基準だが、今まであなたが経験した事が有る症状ならまず
大丈夫だ(但し喘息発作や心筋梗塞の再発作等は例外だが、それは今までの医者の
説明で分かるだろう。何が例外か説明しないような医者は、「医者の選び方・ここがポイント」
見破れる)

◇転医の場合は前医の紹介状(無理ならせめて出ている薬)、ドックで異常を
指摘されたのならその結果(出来ればフイルム、心電図等も)を持参する
(紹介状は、「引越しする」等嘘も方便して書いてもらえばいい)

◇他の科にかかっている場合は、極力紹介状を書いてもらう事。無理ならせめて薬を
持参する事(さもないと薬がダブりかねぬ)

◇化粧は極力しない。するなら出来るだけ薄く(顔色は正しい診断のための、
大切なデータである)

◇決して、間違っても当日に酒を飲まない!(真剣さを疑われる)

◇午前診ならその日は、極力何も飲まない・食べない(採血データにそれが
必要なのがあるし、緊急に胃カメラやおなかのエコーが必要な事もある)

◇出来るだけ軽装で行く(和服、ワンピース、ボディースーツ等はよくない。
またすねが出るようにしておいた方がよいので、ハイソックス、パンストや
きついズボンは止めよう。マフラーやスカーフは外しておく。病院にもTPOがある)

(余談 : ある病院で、エプロンをしたまま診察を受けようとし、
取るよう要請すると、驚くなかれ、無言で診察室を出て行った人がいた!!!)

◇但しブラジャーはしておく事(乳房を見られてもいいなら別だが)

◇お金は財布に入れておく。裸のままポケットに入れておかない
(さもないと、おなかの触診でベッドに寝た時に、気前よくばらまく事になる)

◇難聴の方は、まず耳鼻科へどうぞ(無論緊急の場合は別だが。どうしてと
言われても、診察というのは医者と患者さんがコミュニケートして、患者さんに
とって最高と思われる診療方針を医者が見付け出し、患者さんにそれを提案し、
患者さんがそれを選択するプロセスだ。とすればコミュニケートするために、
患者さんはベストを尽くすべきだ)

◇本を持って行こう(何も読む物がない待ち時間はつらい)

◇医者の説明内容を覚えられる自信が無ければ、メモ用紙と、ペンか鉛筆を持って
行こう

◇出来れば、時間ぎりぎりには行かない(そこの医療機関にとっては,職員を
超勤させねばならない等負担になるし、他へ紹介しようとしても時間外で
大変な事も有り得る)

◇内科の医者は二人は要らない(もちろんよほど特殊な病気なら、専門医と一般医が
要るだろうが、ちゃんとした内科医はたいていの病気なら診れる(診れない医者は、
「医者の選び方・ここがポイント」で見破れる))


2.付き添い編

前文:

付き添いの方に言っておくが、お家を出られる前に、まずその付き添いは本当に
必要なのかどうか考えて欲しい。患者さんが成人で、正常な判断力があり、
コミュニケーションに支障がなければ、こちらには付き添いの必要は全くない。
あまり交流のないご親族や、友人・知人の方ならむしろ守秘義務さえ有ると思う。

それに訴えによっては、他の人が横にいれば、本当の事を言ったり書いたり出来ず、
正しい診断がつかなかったり、診療に支障をきたす場合もある(妊娠や性病に
なるような行為の有無など)。

中原則(そんな言葉は無いか?)」:

医療の一方の主役は、患者さんである(決して、付き添いさんではない)


◇診察場には極力入らない。どうしても入りたければ、必ず許可を取る。その場合、
必要最小限の人数で入る(間違っても無断で入らない! 内科では医者には、
患者さんとしかコミュニケートする義務は無い(小児科なら別だが)(これは
入院患者さんについても言えるが、医者のほうから「します」と言わないご家族への
病状説明は「サービス」だ。間違っても「当然の権利」などと思わないで欲しい)
。必要なら、こちらから「入って下さい」と言うので心配ご無用)

◇未成年や痴呆の方等でやむを得ない場合にも、必ず必要最小限の人数で入る
(そうしないと物理的には診察場が狭くなり、心理的には集中力が乱れるので、診療に
支障をきたす(まあチャランポランに仕事をしている医者は別かも知れぬが...)
。医者──少なくとも僕──にとっては、問診とは病気との真剣勝負だ。)

◇だから決して、間違っても、医者と患者さんの会話には割り込まない!! 
(医者にとっては、これ以上集中力を乱されて不愉快な事は無い。僕も昔に
比べれば、いくらかは人間が丸くなって来たとは思うが、これだけは未だに
我慢出来ない。だからクリニックでは、その旨掲示している。

中には、患者さんと同時にお話して下さる付き添いさんもいらっしゃる。こちらを
聖徳太子様かどちら様かとお思いなのだろうか? 患者さんが、言語障害や難聴等で、
お口添えが必要と判断した場合は、こちらから言うので心配ご無用だ)

◇そういうわけで、お話は患者さんが全てしゃべり終わってからにしよう。
それまでは口を開かないで欲しい。それが出来る自信が無い方は、「診察が
終わったら呼んで下さい」と言って外で待とう

◇またご要望やご意見・ご質問は、診察と説明が全て終わってからどうぞ(これは
患者さんにもお願いしたい。講演等でも講師は、質問は最後にまとめて受け付ける
はずだ。理由はお分かりだろう。同じ事である)

◇患者さんより前に出ない(診察の邪魔になる。脇役が、主役より前に出てはいけない)

◇間違っても、「診察場が暑い」などとは言わぬ事!(診察場は、熱のある患者さんに
服を脱いで頂く場所なのだから、普通の服なら暑いのが当たり前だ(そうでない
医療機関こそおかしい)。ちなみに僕は、真冬でも丸首半袖の白衣で診療している)


3.問診編

「中原則」:

「訊かれた事は過不足なく言う、
訊かれていない事は言わない」


言い換えれば、

「医者に必要なのは、客観的事実のみである(患者さんや、第三者の方の解釈は
必要ない)」

必要な事は、医者はちゃんと訊き足すので、心配しなくていい(但しあなたが、病気と
関係有る事無い事とりまぜて延々としゃべりまくって、医者をうんざりさせた場合は
別だが)。

科学者は、物を言うときは客観性を重んじる(医者も科学者の端くれだ(かなり
うさん臭い科学者ではあるが))。もちろん客観的事実の後には、自分の解釈を
言うが。

だから、患者さんの事を他の医者に知らせるときには、少なくともまともな医者は、
出来るだけ客観的な表現を使う。例えば、レントゲン等のフイルムであれば、
「異常所見を認めない(実際に異常所見が有るかどうかは別として、その医者に
「見えない」のは客観的事実だ)」、検査データであれば、「正常範囲内である」と
いうように。

そういうわけで、特に忙しい外来では、医者の思考過程に出来るだけ合わせて
頂ければ...と思う。

◇呼ばれるまでは入らない(少なくとも僕は、患者さんの事を予習してから
患者さんをお入れしている。それは、患者さんの前で下を向いて、
じっとカルテを見ているのが、僕にはカッコいいとは思えないからだ)

◇挨拶をする(「おはようございます(こんにちは、こんばんは)、宜しく
お願いします」くらいは言おう(時間外なら、「夜遅くに(朝早くに)すみません」
くらいつけ加えると、医者の愛想も絶対違ってくる)。これは人間社会の、一番
基本的なマナーである。逆に言えば、挨拶を返して来ないような医者は
見限るべきだ)

◇荷物は、カゴに置いて手ぶらになる(そうしないと診察出来ない)

◇上半身は、薄手のシャツ1枚になる(これで寒いような医療機関は見限ろう)。
ネクタイを(もししていれば)ゆるめ、上のボタンは二つ外す

◇胸ポケットの中の物は出しておこう(服をまくり上げるのに邪魔になる。
ただしタバコについては、喫っている事を医者に申告すること)

◇にじり寄らない(他人同士の間には、適正な距離という物が有る)

◇医者の体に無断で触らない(「ここが痛い」とか言うときには、ご自分のお体を
触ろう)

◇メモ等をつばをつけてめくらない(これは関西人の習慣なのだろうか?
しかし、お世辞にも上品とは言い難い)

◇他の医者や看護婦さん、事務員さん等についてのクレーム(苦情)を、
医者に言わない(医者は彼らの上司でもなければ、雇い主でもない。
だから監督責任も雇用責任もない。従って、そんなところの尻を持ち込まれても困る。
(但し医者が院長なら、また他の医者へのクレームについては、
医者が内科部長クラス以上なら話は別))

座ると、医者が「どうされました?」とか訊いて来るはずだ。そこで、

◇必要かつ十分な事を(5W1Hで言おう。新聞記事と同じだ。)

◇普通の速さかつ音量で(普段から「早口だ」とか、「声が大きい」とか言われる
人は気をつけよう)

話そう。もし問診表が有れば、

◇問診表は、もれなく正確に書こう。かつ、

◇問診中は、問診表に沿って話そう(そうしないと、書いてもらった意味がない。
医者がリードしてくれるはずだ)

「必要かつ十分」について、もう少し具体的に言っておく。

◇「はい」か「いいえ」しか答えの無い質問には、そのどちらかで答える
(例えば「痰は出ますか?」と訊くと、「余り出ない」とか、余計な事を言う人が
よくいるが、「出ます」か「出ません」のどちらかで、はっきり答えるべきだ。
多いか少ないかは、必要があればまた訊く。忙しい外来では特に、
こういう答えはストレスフルだ)

◇同じことは二度言わない(「お前はアホだ」と言っているのと同じだ。間に他の
事がはさまっている場合は、ある程度仕方ない面も有るが、連発はどうかご遠慮
頂きたい。少なくとも僕は、必要な事はちゃんとカルテに書いているし、
訊きもらした事は必要ならもう一度訊くので、心配ご無用だ)

◇明らかに病状と関係の無い事は言わない

◇但し、病状の事は全て言う(時々診察が全て終わってから、新しい訴えをされる方が
いらっしゃるが、そうなるともう一度診察台(ベッドの事だ)に寝て頂かないと
いけない場合も有り、はっきり言ってストレスフルだ。

但し「全て」と言っても、程度問題である。最初の診察で、いきなり
20や30の訴えをされても、正直言って困る。まあ初めての診察では、
一番つらい事2つか3つくらいまでにしておこう

また時々、今まで医者にかかった歴史を、微に入り細に入りご説明して
下さる方もいらっしゃるが、なぜ医者を変わったかとか、それは家族が
どうしたためとか、そういうのまでは必要ない。余り詳しすぎるのも、
忙しい外来では特に困る。)

以上、「必要かつ十分」の補足である。

◇極力標準語を使う。特殊な方言や幼児語は使わない(前者は、医者との間に
壁を作る。後者は、知性を疑われる)

◇尊大な態度(いわゆる「デカい態度」)はとらない(これは大原則の通りだ。
もちろん卑屈になる事もないが)。そのためには、

◇明らかに年上の医者には、必ず敬語を使おう(いわゆる「タメ口」はNG。これは
日本語圏の基本的なマナーだ。もちろん、医者が一見同い年くらいや年下でも、
お互い大人なのだから、敬語を使うに越した事は全くない)

◇決してウソをつかない(まあ言うまでもない事だが)

さてあなたは、病状の事を全て話し終えた。

ここで「小原則(そんな言葉は無いか?)」:

「結論は医者が言う」


ネットをやるような知的レベルの高い方には信じられぬかも知れぬが、初めから
ご自分の結論をお持ちで、それに同意してもらうためだけに医療機関を訪れる方が、
世の中にはゴマンといらっしゃる。こういう方の、正しい行き先は薬局だ。
医療機関ではない。

僕は以前、タロット占いを少しだけかじった事があるが、タロットの入門書には
こう有った。

「『いい結果を出して下さい』などと思ってはいけない。無心にカードに
尋ねる事だ。」と。

僕はこれは、まさに医療の現場にも当てはまる事だと思っている。

もちろん時間的および経済的な理由等で、医者の結論を実行出来ない場合も
あるだろう。その場合は仕方がないので、こちらも次善の策を提案する。

しかしまずは、付き添い編でも言ったが、医者の結論を最後まで、茶々を入れずに
しっかり聞いて欲しい。ご意見やご質問・ご要望は、その後でお願いしたい。
話の腰を折られると、集中力がガタッと落ちる。

そういうわけで、

◇話し終わった後は、「宜しくお願いします」とだけ言う(これも口に出しては
言わなくていいかも知れない)

つまりもっと具体的に言えば、

◇「○○して下さい」は禁句!(例えば、「薬をくれ」「点滴してくれ」等は
間違っても言わぬ事。薬がいいのか点滴がいいのか(あるいはどちらも要るのか
、さもなければ要らぬのか)、それは医者が決める事だ)

ちなみにただの風邪に、注射や点滴は不要だ。何故かかいつまんで言うと、風邪の
ほとんどは、ウイルス(俗に言う「ビールス」)で起こるものだ。そして風邪の
ウイルスにもいろいろ有るが、インフルエンザウイルス以外の風邪のウイルスに効く
薬や点滴や注射は、残念ながら現在の医学には無い(インフルエンザウイルスに効く
点滴や注射も無い)。そういうことだ。

また当然の事では有るが、

◇「他の医者はこうしてくれた」も禁句(それなら、その医者のところに行けば
いいのである。患者さんには、医者と病院を選ぶ権利がある)

◇「○○が『××してもらえ』と言っていた」はもう一つ禁句!(それならその
○○さんに、診てもらえばいいのである。「○○」には、今まで僕が出っくわした
例では、「主人」とか、「親方」なんてのも有った)

話は前後するが、この流れでもう二つ。

◇臓器会話はしない(「胃が痛い」は良くない。胃が痛いのか胆嚢が痛いのか
膵臓が痛いのか、はたまた心臓が痛いのか腸が痛いのか肺が痛いのか、
それは医者が決める事だ。日本語には、「みぞおちのあたりが痛い」という
言葉がある。それが難しいのであれば、「へその上のあたりが痛い」とか、
「おなかの上の方が痛い」とか言おう)

◇病名会話はしない(「風邪です」や、「昨日から喘息で」は良くない。「何の
病気なのか、自分で分かるほどおエラいのなら医者に来るな」と言う話になる。
「鼻水と咳が出ます」とか、「昨日から息が苦しくて」と言おう。

どうしても「喘息」という言葉を使いたいのなら、「同じ症状のとき他の医者で、
前に喘息と言われました」と言えばいい(問診表が有れば書けばいい))

あなたが一通りしゃべり終わった後、医者がいろいろ訊き返して来るはずだ。
そこで、

◇必要かつ十分の答えを返そう

そのためには

◇医者の話をしっかり聞こう(「人の話は最後までしっかり聞く」というのは
小学校で教わったはずだが、どうもそれをお忘れの方が多いようだ)

最後にもういくつか。

◇性急に結論を求めない(開口一番、「○○病と違うでしょうか」とおっしゃる方も
たまにいらっしゃるが、僕らは魔法使いでもなければ占い師でもない。お話を伺い、
お体を診察し、場合によっては検査もしないと診断は出来ない。結論はそれからだ)

◇民間療法のことを肯定的に言わない(そういうレベルの人と思われる。大体保険で
認められれば安くもなり桁違いに売れるのに、そこらへんでこそこそ隠れて売っている
ような物が効くわけがない。そもそもそんなに効く物が有れば、医者が放っておく
訳がないではないか)

◇マスコミ等で得た知識を、得意げに披露しない(心配しなくても、少なくともまともな
医者は、もっと確実な知識を持っている。マスコミが流すのは、往々にして
追試がされていない新説や、誇張された情報だ)

また、

◇医者がカルテを一生懸命書いていたり、調べ物をしているときに話しかけない
(「お前の仕事は遊びと同じだ」と言っているようなものだ。大原則を思い出そう)


4.診察(身体所見)編

「中原則」:

「言われた事は言われた通りする、
言われていない事はしない」


さて最初は、何と言っても

◇診察は拒否しない

という事だ。笑ってはいけない。決して多くはないが、こういう人はどこの病院にも
いる。うちのクリニックは比較的分かっている患者さんが多いが、それでもやはり
まれにはいる。

こういう人の、正しい行き先は薬局だ。医療機関ではない。一度も患者さんを診察せずに
薬を出すような無責任な事は、少なくとも僕には出来ない(他の良識有る先生方も
同じだろう)。

(余談:以前「男性医師が女性の患者さんの胸を診察する際は、インフォームド・
コンセントが必要だ」などと寝言を言っていた医者がいた(そしてその医者の
影響か、同じような事を言う患者さんもいた)。この医者は臨床経験は有るはず
なのだが、どうしてこんな事を言うのだろう。よほど暇な診療をしているのだろうか。
だとすればうらやましい限りだが)

次に、

◇血圧の測定の際は、袖をまくり上げない(「帯」(「マンシェット」と言う)が
巻きにくくなるし、厚着をしていると腕が締めつけられて値が狂う(それ以前に、
まず診察場では薄着になって欲しいが。ジャケットやコート等は言うまでもないが、
セーター、トレーナー等も脱いで欲しい))

◇血圧の測定の際は、手を無用に動かさない(よく巻きに行ったマンシェットを
また越すような手の動きをされる方がいらっしゃるが、はっきり言って余計なお世話だ)

◇いきなりベッド(「診察台」)に寝ない(上半身の診察は、座ったままの方が
やり易い)

◇いきなり服をまくり上げない(首のリンパ節や、甲状腺等の診察が出来ない)

◇目の病気のことは眼科医にどうぞ(僕ら内科医は、目そのものを見ているわけでは
ない。目の下の「結膜」という所を見て、貧血や黄疸の有無を判断しているのだ(但し
糖尿病性網膜症や、高血圧性眼底は別である。どんどん言って欲しい))

次に、胸の診察だ。

◇胸の診察では、下着も含め全ての服(女性はブラジャー以外全て)を、一番上まで
まくり上げる(そうしないと肺の一番上の方の音が聴けないし、肝臓病の場合は
特有の変化が、そのあたりの皮膚に現れる事が有るがそれも見逃す)

(余談:昔の日本医師会長の武見太郎という人は、たとえ患者さんが現役の
国務大臣でも、パンツ一丁にして診察したそうだ。まあ普通の内科で、そこまでやる
必要があるかどうかは疑問だが(大体僕ごときがそんな事をしたら、患者さんが
逃げるだろうが)、本当はそこまでやっても悪くないくらいのものなのだと
いう事は、頭に置いておきたい)

ちなみにここで、やおらワイシャツのボタンをはずし始める方がいらっしゃるが、
それは必要ない。一番上まで、ただまくり上げて頂ければ結構だ。
特にそれをゆっくりやられると、忙しい外来では非常にストレスフルなので、
どうかお止め頂きたい。

◇打診だけで服を下ろさない(笑ってはいけない。こういう事をなさる方はかなり
いらっしゃる。「この人を今まで診た医者は、聴診器をあてなかったのか?!」と
思ってしまう。「細かい事を...」と思われるかも知れぬが、忙しい外来でこういう
患者さんが何人か続くと、疲れがドドッと出てしまう)

次に聴診だ。医者はまず、「大きく速く息をして下さい」とか言って来るはずだ。
そこで、

◇言われた通り、大きく速く息をする

ここでだが、「大きく、かつ速く」と言っているのに、「大きく、かつゆっくり
息をして下さる方が余りにも多すぎる。忙しい外来では特にストレスフルなので、
どうかご勘弁頂きたい。

但し、速く息をし過ぎぬ事(犬が暑いときにするようなのはNG
(冗談で言っているのではない。こういう方は本当にいる))

これは肺の音を聴いているのだが、次に心臓の音を(少なくともまともな医者は)
聴く。「もう普通の息でいいです」とか言って来るはずだ。だから、

◇言われた通り、いつもやっている通り普通に息をする

ちなみにここで勘違いして、服を下ろされる方がいらっしゃるが、どうかご勘弁頂きたい。
忙しい外来で、こういう患者さんが何人か続くと(以下略)

あと、

決して、間違っても、聴診中は声を出さない!!(医者の耳にとって、これはもう
暴力に等しい。聴診器というのは、肺や心臓が立てる小さい音を拾い上げる道具
なのを考えれば、分かってもらえると思う。声を出しながら胸を触ってみよう。
震えるのが分かるはずだ。

もし聴診中にあなたが声を出しても、涼しい顔をしている医者がいたとしたら、
その医者は高度の難聴か、そうでなければその聴診器が完全なるポンコツか、
あるいはその両方かだ。いずれにしても見限った方がいい)

(余談:マンガ「沈黙の艦隊」では、主人公の潜水艦がアメリカ海軍に反旗を
翻すのだが、この造反ののろしが、大きな音を立てて他のアメリカの潜水艦のソナー
マン(他の潜水艦等の小さい音を聴き取る人)の耳をつぶす事だったのを思い出した)

そのためには、まず

◇医者が聴診器を耳に着けたら、話をやめる(お話をされているのは分かるが、
内容までは分からない)

ちなみに、「汗で濡れててすみません」みたいな事をおっしゃる方もいるが、そういう心配は
ご無用だ。汗くらいの事でビビっていては、医者はとてもじゃないが勤まらない。
医者の仕事は、そんなに優雅なものではない。何しろ患者さんの吐血を、頭から
かぶらなければならない事だってあるのだから。

次はおなかの診察だ。

◇ベッドに仰向けになる(「仰向け」という言葉を、ご存知ない方が時々いるから
困る。まあネットをされるような方には関係ない話だろうが)

◇ベルトをゆるめ、ウエストのボタン・ホック等とファスナーを開け、おなか全体が
見えるようにする(ちゃんと下の方も見ないと、盲腸も含め腸のことが分からない)

ちなみにこれを知らない方で、僕らがベルトをゆるめ、ウエストのボタン・ホック等と
ファスナーを開けようとすると、今さらのようにご自分でなさろうとする方もいらっしゃるが、
かえって邪魔になるので、ご遠慮頂きたい(「中原則」を思い出そう)。

◇腕は横に置き、膝は立てよう(つまり、足は曲げるという事だ。ちなみに足を
立ててもらった後、「手を横に置いて下さい」と言うと、頼みもしないのに、
せっかく曲げた足をまた伸ばして下さる方がいらっしゃるが、どうか止めて
欲しい。「細かい事を...」とおっしゃるかも知れぬが、忙しい外来でこういう
患者さんが何人か続くと、疲れがドドッと出てしまう)

この後医者はおなかを押さえ、「痛くありませんか?」とか訊いて来るはずだ。
そこで、

◇押さえた所が痛いか痛くないかだけ言おう(押さえないときにどこが痛いとか、
押さえたときに他の所が痛いとか、押さえた所が気持ち悪いとか、そういう余計な
事は言わなくていい。「細かい事を...」とおっしゃるかも知れぬが、(以下略))

次に息を吸い込んで、おなかをふくらませるように言って来るはずだ。だから、

◇言われた通り、息を吸い込んで、おなかをしっかりふくらませる。

後は足を診察するはずだ(少なくとも僕はそうしている)。

医者や訴えによっては、この後神経系の診察もする事が有る。「中原則」の通りに
して下さい。


5.説明編

さて、診察が終わった(場合によっては、診察の後にすぐに結果が出る簡単な検査をし、
結果が出た)。そこで、

◇とりあえずの結論を言うので、くどいようだが、茶々を入れずに必ず最後まで
しっかり聞こう。ご意見やご質問、ご要望等はそれからどうぞ

当然の事だが、

◇間違っても、頭にご自分の結論を言わない!(笑ってはいけない。こういう人は
現実にいる。「一体それまでの診察は何やったんや!」という事になる。

(余談:前いた病院で、診察が終わった後で開口一番、「○○先生の薬をくれ」と
言った人がいた!!!(当然次回からは、その先生の方に行ってもらうように、
事務員さんに言ったが))

また、

◇図を書いて説明しているときは、図をしっかり見よう(時々図を書いている
ときも、僕の顔に見入っていらっしゃる方がおられる。)

◇勧められた薬・検査・点滴・注射・処置等は、極力拒否しないで協力する(時間的
および経済的な理由等で無理な場合は、説明が終わってから申し出て欲しい。
そのときは次善の策を提案する。もちろん不必要な薬・検査・点滴・注射・処置等を
提案する(ないしは押しつける)医者の面汚しも、世の中にはゴマンといるが、
そういうのは「医者の選び方・ここがポイント」で見破れるはずだ)

これと関連して、もう3つ。

◇副作用を、必要以上に怖がらない(副作用の予防・早期発見と早期対策は、医者の
一番大切な仕事の一つである。これがないのなら薬局の方が、待ち時間がないだけ
ましだ。まともな医者は、副作用より薬のもたらす利益が大きいと判断した場合にだけ、
薬をお勧めするものだ)

◇診察前の検尿は、診察のうち(一番怖いのは、糖尿病の「ケトアシドーシス」という
致命的な合併症を、胃腸炎とかと誤診する事だ(腹痛で発症するので)。他にも
検尿で、腎炎とか膀胱癌とか、いろんな病気が見つかる事がある)

◇健康診断で異常を指摘されれば、精密検査を必ず受ける事(そうしないと、貴重な
税金と、医療関係者のマンパワーが無駄になる。それが出来ない方は、最初から
検診を受けないで欲しい)

あとは、

◇不必要な薬・検査・点滴・注射・処置等を要求しない!(病院は薬局ではない。
税金とマンパワーを無駄にしないで欲しい。大人なら、他人の迷惑を考えるべきだ)

◇書類はせかさない(以前にも言ったが、あなた一人の外来ではない。
さらに言えば、外来だけの医者でもない)

◇無理な診断書を要求しない(診断書には、根拠の無い事やウソは書けない。
それは犯罪である)

◇再診日には必ず来院する事(まあ常識ではあるが)


6.蛇足

もしあなたが、ここに書いたことを全て読んで、かつ忠実に守ったとして、
それでもまだあなたの主治医にやる気がなさそうなら、それは本当に
やる気のない医者なので、見限った方がいい。



最後まで読んでくれて、本当に有難う。ご意見、ご感想等は

hide@helio-trope.com

までどうぞ。「こんな話が聞きたい」というリクエストも大歓迎だ。
(ここで紹介させてもらう事が有るので、それを希望されない方は
乞うご明記)


それとこのメルマのバックナンバーが、僕のHPで読めるので、

http://heliotrope.s9.xrea.com/

の、「メールマガジンバックナンバー」を乞うご高覧。デワマタ。