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     歌う医学博士・Hideが行く
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  Vol.35. ボサノヴァ講座・初級編 (完全版)
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ボサノヴァ講座・初級編の完全版を作ったので、ここで公開する。
宜しければお友達にもご紹介下さい。それでは。



Hideのボサノヴァ講座・初級編


初級編は、やはりこの人の話から始めないわけには行かないだろう。
ボサノヴァを知る人なら、「ボサの話なのに、何であの人の名前が出ないんだ?」と
思っていらっしゃったかも知れない。

実は初心者の方にはとっつきにくかろうと思って、あえて入門編では名前を出さずに
いたのだ。その人の名はこうだ。

ジョアン・ジルベルト。

この人がどれだけ凄いかは、この人の異名が「ボサノヴァの法王」である事を話せば
分かってもらえるだろうか。法王とは言うまでもなく、世界中のカトリック信者の頂点に
立つ人である。その宗教的な権勢はもちろん、世俗的なそれも大変なものだ。

「そんなもんクリスチャンでもあるまいし分かるか!」とおっしゃるあなた。

あなたはロックが分かるだろうか。ジョアン・ジルベルト(以下単に「ジョアン」)と
言う人は、ロック界で言えばジョン・レノンと、ミック・ジャガーとポール・
マッカートニーと、ついでにエリック・クラプトンとリッチー・ブラックモアと、
ジミー・ペイジとキース・リチャーズを合わせたくらいの存在である。

リッチー・ブラックモアが嫌いなロックファンはたくさんいるだろう。「ジョンは
好きだがポールは嫌いだ」という人も結構いるだろう。しかしこの7人が全員嫌いだと
言うロックファンに、僕は会ったことがない。

それと同じで、ジョアンという人はボサノヴァ界のカリスマなのだ。ジョアンが嫌いだと
言うボサファンやボサミュージシャンを僕は知らない。

あのナラ・レオンでさえ「ボサノヴァアルバムを作って欲しい」と言われた時、
こう言ったそうだ。

「ジョアンが完璧に歌ったものを、どうして今さら私がまた歌う必要があるのか」と。

まあしかし結局歌う事になり、そしてアルバム「イパネマの娘」を残してくれた事は、
人類にとって素晴らしい幸運だった。

僕は冗談抜きであのアルバムは、人類の宝だと思っている。もう聴いて下さった方は
いらっしゃるだろうか。

中には「もっとナラを聴いてみたい」とおっしゃる方もいるかも知れない。
そんなあなたには、

美しきボサ・ノヴァのミューズーーばらに降る雨/ナラ&エリス 
(日本フォノグラム株式会社)

を紹介しておこう。

このアルバムは、「イパネマの娘」(アルバムでなく曲の方の)や「コルコヴァード」の
別ヴァージョンを収めており、これがまたいい。「まじめな青年」も軽快で楽しい。

それともう一つおいしいのは、やはりボサノヴァの大歌手・エリス・レジーナのアルバム
との2in1盤である事だろう。こちらは「悲しみ」と、「私はあなたのもの」が一番の
お勧めだ。ジョビンとの合作であるのもうれしい。彼のヴォーカルも「三月の雨」で
聴ける。このデュエットがまたいい。

話をジョアンに戻そう。ボサノヴァの原点がガットギター(クラシックギターと
言った方が通りがいいだろうか)の弾き語りであることは、忘れてはならないだろう。
そしてそのギターのリズムパターンは、この音楽に特徴的なものだ
(これについて詳しく知りたい方は、

http://member.nifty.ne.jp/BossaNova/

の、「ボサノヴァを弾き語ろう!」をご参照下さい。ボサの弾き語りを始めてみたい
方にもお勧めだ。)

このリズムパターンを発明したのが誰かという事には諸説があるが、少なくともその
完成者がジョアンで、その時期は1956年前後であった事は、衆目の一致するところ
だろう。

つまりジョアンがいなければ、ボサはなかった事になる。いや有ったかも知れないが、
少なくとも現在の形ではなかっただろう。よしんば現在の形であったとしても、もっと
出現は遅れていただろう。

前々回言った通り、1963年にジョビンはアメリカで、「イパネマの娘」を
レコーディングし、これは世界中で大ヒットした。このとき前半のヴォーカルと、ギターを
担当したのがジョアンだ(ちなみに後半のヴォーカルは、当時の彼の夫人であった
ボサノヴァシンガー、アストラッド・ジルベルトによるものだ)。

そしてプロデューサーは、マスターテープに魔法のハサミをふるった。つまり前半の
ヴォーカル(ポルトガル語)をカットし、ヴォーカルは後半(英語)のみにしたのだ。

おそらくこの魔法のハサミがなければ、「イパネマの娘」の大ヒットは無かっただろう。
そしてボサノヴァが、世界にその名を知られる事も無かっただろう。

しかしその反面、この魔法のハサミが、ボサノヴァの本質が広く誤解される元を
作ったのもまた事実だ。多くの人は、ボサノヴァを未だに、「60年代ジャズの
一変種」や、「おしゃれな夏のBGM」と思っているだろう。その原因の大半もまた、
この大ヒットから始まったのだ。

言い方を変えれば、ジョアンの凄さというのは、ボサを聴き込まないと分からない。
逆に言えば、聴き込めば聴き込むほど分かってくる。今まで紹介しなかったのも、
それが理由だ。

とりあえず、このアルバムを聴いて欲しい。

The Legendary Joao Gilberto (邦題は「ジョアン・ジルベルトの伝説」
オデオン/EMI(東芝))

(邦題は「ジョアン・ジルベルトの伝説」オデオン/EMI(東芝)だが、'98年現在
日本では廃盤になっているそうだ(ジョアンがブラジルEMIともめたらしい)。
再発されているかも知れないが、もし無ければ輸入盤の店で注文して下さい。
ちなみに僕は輸入盤を買った)

これはなんと38曲入っている。もちろんボサの名曲もたくさん入っている。
はっきり言ってお買い得なアルバムだ。

さて、"The Legendary Joao Gilberto"を紹介したが、「国内版で買えるのを
紹介せんかい!」とおっしゃる方もいると思う。

そんなあなたには、どれにするか迷いつつも、このアルバムを紹介したい。

ジョアン・ジルベルト アコースティック・ライヴ 〜あなたを愛してしまう〜 
(ソニー・ミュージックエンタテイメント)

これを選んだのは前述の通り、ボサノヴァの原点は、ギターの弾き語りであるからだ。

実はジョアンは、その奇行癖でも知られている。たとえば外出前に二本のズボンの
どちらをはくかで数時間迷ったりとかだ。彼は理由を訊かれて、なんと
「はかなかった方がかわいそうだから」と答えたそうだ。

現在の彼は、奇行癖が昂じてかあるいは人間不信なのか、徹底的な隠遁生活を送って
いるらしい。その徹底ぶりと言ったら、食事を運んできた人にも手しか見せない
ほどだそうだ。ただその反面、たまには友人のパーティーにも出たりとか、夜ドライヴに
出る事もあるらしい。ただしドライヴ中、目をつむる事もあるらしいが(!!!
「やめてくれー!」と言いたくなる。何せ彼はボサノヴァ界のみならず、世界の音楽界の
至宝なのだから)。

多分彼はこの隠遁生活の中、一日に何時間も、一人ギターを弾きながら、あのささやく
ような声で歌っているのだろう。「アコースティック・ライヴ 〜あなたを
愛してしまう〜」を聴けば僕もあなたも、彼の部屋に招待されたようなものかも知れない。 
このアルバムを紹介するにあたり改めて聴いてみたのだが(ジョアンは軽々しく
聴かない事にしているのだ。もちろんBGMにするなどとんでもない)、
第一声から彼の世界に引き込まれてしまった。やはり他のシンガーとは格が違う。

誰かが言った。「ジョアンの音楽こそボサであり、彼はボサノヴァ精神そのものである」
と。その通りなのかも知れない。

曲について言えば、"Fotografia" がイチ押しだが、"Desafinado"(デサフィナード)、
"Meditacao"(メディテーション)、"Chega de Saudade"(ノー・モア・ブルース) 、
"Corcovado"(コルコヴァード)、そして ”O Amor em Paz"(過ぎし日の恋)など、
名曲が目白押しだ。"Estate"もいい。

「アコースティック・ライヴ 〜あなたを愛してしまう〜」を聴いて、「もっと
ジョアンの弾き語りが聴きたい!」とおっしゃるなら、

ジョアン・ジルベルト・ライヴ!( "wea music" と書いてあるが、
国内盤なので安心してほしい)

と、輸入盤だが

Joao Gilberto Live At The 19th Montreux Jazz Festival(ワーナーブラザーズ?)

をお勧めする( 後者については、"Joao Gilberto Live In Montreux" (たぶん
同じ会社)というのも有るが、それぞれもう一方に入っていない曲が有る。"19th" には
3曲、"Live In" には1曲だ)。


ジョアンの話はここまで。次は小野リサさん(以下単に「リサさん」)の話をしよう。

たぶんリサさんは、今まで紹介したアーティストの中で、ダントツに知名度の高い
人だろう。もっと早く紹介したほうが良かったかも知れぬ。

実際僕も以前言った通り、小野リサさんからボサの道に入った一人だ。そこから源流に
さかのぼって行った。

今でもボサの曲を覚えるとき、大体はナラやジョアンをお手本にするが、いいお手本が
ない曲のときはリサさんをお手本にしている( "Ela e Carioca" とか)。

リサさんのどこが素晴らしいかと言うと全ていいのだが、やはり一番はあの声だろう。
これも以前言った通り、ジョビンも言っている。

「どうして一緒にレコーディングしたかって? リサの声が素晴らしかったからさ!」と。

もちろん曲も詞も素晴らしいものをたくさん書いているし(詞はポルトガル語!さすが
ブラジル育ち)、ギターの腕も素晴らしい。

ギターといえば、大貫妙子さんの「プリッシマ」と言うアルバムが昔有ったが、この
アルバムにボサ風のナンバーが入っていた(これがまたいい曲で、昔ライヴでも歌った
事がある)。その時は「ああ、女の人がギターを弾いてるな」と思っていただけだが、
のちにクレジットを読み返してリサさんである事を知り、「ああなるほど」と思った。

リサさんのいい所は、いろいろな企画もののアルバムを出しているので、
実に間口が広い所だ。

たとえばポップスファンのあなたには、

pretty world (東芝EMI)

をお勧めする。"Yesterday", "You Are The Sunshine Of My Life", "Every
Breath You Take", "I Left My Heart In San Francisco" などのポップスの名曲や、
"My Cherie Amour", "This Masquerade" といった渋めの佳曲をボサに料理している。

一つ個人的な話をすると、昔グアムに行く時、空港へと高速を走る車のカーラジオから、
このアルバムが流れてきて、とてもうれしかった事があった。

ジャズファンのあなたには、

DREAM(東芝EMI)

をお勧めしたい。あの車のCMでやっていた "Moonlight Serenade" の他にも、"Tea
For Two", "Night And Day", "As Time Goes By", "Sentimental Journey" など、
ジャズのスタンダードナンバーをしっかり押さえている。

実はナラ・レオンも、スタンダード・ジャズのカヴァーアルバムを2枚出している。
こちらはポルトガル語でやっている。きっとリサさんも、ナラには凄くあこがれて
いるのだろう。

ポップスやジャズよりファンは少ないだろうが、ハワイアンがお好きなあなたには、

Lisa's Ono Bossa Hula Nova(東芝EMI)

がお勧めだ。僕はハワイアンの事はよく知らないが、リサさんが歌う "Beyond The
Reef" は最高のスロー・ボサだ。これ1曲で、このアルバムはもう買う価値があるだろう。

クリスマスには、

Boas Festas(東芝EMI)

が欲しいところだ。

"(Let It Snow)3", "White Christmas", "Ave Maria", "Silent Night" など、
定番がしっかり入っている。

O MELHOR DE LISA (MIDI INC.)

はベストアルバムだが、これにおさめられている "CANTO PARA NANA" は素晴らしい。
この一曲で、このアルバムはもう買う価値がある。"NANA(ナナン)"と言うアルバムに
収められている曲だが、このアルバムのヴァージョンでは、カウント(英語で
言う "one,two,one,two,three,four" だ)がポルトガル語なのがまたカッコいい。

ちなみにこの曲は、ギターとパーカッションが違うリズム(後者は二拍三連)なのだが、
これは歌と3つで、仕事と趣味と恋愛のメタファー(隠喩)らしい。

以前言ったワイン「ポレール」のCMソングの、「星の散歩」も入っている。

次に、

カトピリ("CATUPIRY")(MIDI INC.)

はリサさんのデビューアルバムだが(僕はこのアルバムでリサさんを知った)、
"CHEGA DE PISAR NA BOLA" はノリが最高だ。

僕はリサさんは、スタンダードはやらないのかと思っていたのだが、

AMIGOS(BMGジャパン)

では、"GAROTA DE IPANEMA", "MANHA DE CARNAVAL","DESAFINADO","DINDI" 等の
スタンダード・ボサにトライしている。また、

BOSSA CARIOCA(東芝EMI)

には、"SO DANCO SAMBA", "CHEGA DE SAUDADE", "CORCOVADO", "ELA E CARIOCA" 等
これまたスタンダードものが目白押しだ。

そう言えば、リサさんはかつてライヴハウスをクビになった事が有るらしい
(リサさんでも!)。きっとその頃リサさんは、ライヴハウスでこういう
スタンダードものを歌っていたのではないだろうか。

ちなみにかのビートルズも、レコード会社のオーディションに落ちた事が
あるそうだ(!!!...ちなみにそのオーディションの担当者は、後日全員クビに
なったらしいが。社長の激怒する顔が目に浮かぶ)。

Namorada(BMGビクター株式会社)

はミニアルバムだが、ギター1本で歌った "Menina Flor" が一番のお勧めだ。
リサさんもジョアンには凄くあこがれていて、ギター1本で歌ってみたかったと
言っている。

最後に、

セレナータ・カリオカ(BMGビクター株式会社)

は、ラストのタイトル・ナンバーが、夢見心地にさせてくれるピアノ・バラードだ。
夕焼けを眺めながら聴くと、最高にいいだろう。

以上のガイドを手がかりに、あなたもリサさんのアルバムの中から、
あなたにとっての「この一枚」を見つけてくれれば、僕にとってこれに勝る喜びはない。

それでは、Have a good bossa life!