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歌う医学博士・Hideが行く
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Vol.34. ボサノヴァ講座・入門編 (完全版)
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ボサノヴァ講座・入門編の完全版を作ったので、ここで公開する。
宜しければお友達にもご紹介下さい。それでは。
Hideのボサノヴァ講座・入門編
僕がプロデュースをしている、日系ブラジル人ボサノヴァシンガーの
「ジョアン成原」という人がいる。
さてジョアンがやる「ボサノヴァ」とは、一体どういう音楽なのだろう?
ここでは、ボサノヴァの「ボ」の字も知らない方を対象に書く。入門編だ。
あなたは小野リサさんを知っているだろうか。それなら話は早い。まあああいう音楽だ。
小野リサという名前は知らなくても、何年か前「ポレール」という国産ワインのCMに
出ていた人と言えば、「ああ、あの人か!」と思い出して下さる方もいるだろう。
最近では、某自動車会社のCMで、「ムーンライト・セレナーデ」というジャズの
スタンダードナンバーを、ボサノヴァ風にカヴァーして歌っていたのを思い出す。
最近では、雅子皇太子妃のご学友だったというボサノヴァシンガーの原久美という人が、
「たけしの誰でもピカソ」に出ていたりしたが、ご覧になった方もいらっしゃるだろう。
これでも「全部知らない」とおっしゃる方、ご安心頂きたい。
ユーミンこと松任谷由美さん(当時荒井由美さん)の、「あの日に帰りたい」という曲を
ご存知だろうか。実はあの曲は、今で言うJポップに、初めてボサノヴァのリズムを
持ち込んだ曲として有名だ(曲自体がボサノヴァシンガーの、アストラッド・ジルベルトと
いう人の "Fly Me To The Moon" という曲のパクリだという話がある)。
Jポップのアーティストで言えば、今井美樹さんの "Smells Like You" という曲が、
以前某チョコレートCMで使われていたのを覚えていらっしゃる方もいるだろう。あれも
ボサ風の曲だ。
それでも「まだ知らない」とおっしゃる方。アーティスト名でなく曲名で行こう。
これから挙げる曲名をご存知だろうか。一つくらいは思い当たるのではないだろうか。
「イパネマの娘」、「ノーモア・ブルース(想いあふれて)」、「ワンノートサンバ」、
「コルコヴァード」、「ウエイブ」、「フェリシダージ」、「黒いオルフェ
(カーニヴァルの朝)」、「メディテーション」、「デサフィナード」、
「ジェット機のサンバ」...。これらは全部ボサノヴァの曲だ。
「イパネマの娘」と言えば、以前川島なおみさんと菅野美穂さんの主演で、
「イグアナの娘」というドラマが有ったが、あのタイトルはは絶対「イパネマの娘」の
パクリだと思うのだ。
「黒いオルフェ(カーニヴァルの朝)」と言うのは、同名のブラジル映画に使われている
曲だ。ボサノヴァをご存知なくても、この映画ならご存知の方もいらっしゃるのでは
ないだろうか。
これでも、「全部知らない」という方。
聴いた事のない音楽の事を、言葉で伝えるのには限界がある。一度だまされたと思って、
このアルバムを聴いてみて下さい。
イパネマの娘/ナラ・レオン(日本フォノグラム株式会社)
ボサノヴァはすばらしい音楽だから。BGMに流してもいいし、じっくり聴き込んでも
いいし、とにかくささくれ立った心を、癒してくれる音楽だから。このアルバムを聴いて
くれたら、きっとそれが分かると思う。
小野リサさんも言っている。「そして何よりも、ボサノヴァは平和だから...。」と。
ちなみにナラ・レオンという人は、「ボサノヴァのミューズ(女神)」と言われる
ボサノヴァシンガーで、前述のアストラッド・ジルベルトや小野リサさんをはじめ、
のちの多くのボサノヴァ・シンガーたちのお手本になった人だ。
「イパネマの娘」は、小さなレコード店では、多分取り寄せになるだろう。
と言うか、かなり大きな所(いわゆる量販店)でないと置いていないかも知れない。
断っておくが、僕は日本フォノグラム株式会社にもナラ・レオンにも、何の義理も無い。
ただこのボサノヴァと言う素晴らしい音楽を知る方が、この世の中に一人でも増えて
欲しいと思うだけだ。そうすればボサノヴァの素晴らしいレコードや映像ソフトの
数々が、日本でもっと手に入りやすくなり、またボサノヴァの素晴らしい
アーティストたちも、どんどん日本に来てくれるからだ。またボサノヴァがやれる
ライヴハウスやライヴバーが、どんどん増えてくれるからだ(まあこのへんは遠い夢だが)。
山川健一さんという、作家でバイク評論家で、かつロック・ミュージシャンという
なかなか凄い人がいる。ストーンズ・フリークでもあり、ストーンズのアルバムに
短編小説を書いていたりしたので、ストーンズのファンの方はご存知かも知れない。
この人は、「ブルースの伝道師」と自称している。
山川さんの言葉を借りれば、僕は「ボサノヴァの伝道師」なのかも知れない。
話を「イパネマの娘/ナラ・レオン」に戻そう。このアルバムは、僕がさっき挙げた
ボサノヴァの名曲が全て入った、実にお買い得なアルバムだ。最高のボサノヴァ名曲集と
言っていいだろう。もう一度、曲名を書いておこう。
「イパネマの娘」、「ノーモア・ブルース(想いあふれて)」、「ワンノートサンバ」、
「コルコヴァード」、「ウエイブ」、「フェリシダージ」、「黒いオルフェ
(カーニヴァルの朝)」、「メディテーション」、「デサフィナード」、
「ジェット機のサンバ」...。
さてこれらの名曲のほとんど全て(「黒いオルフェ」以外)を、作曲した人をこれから
紹介しよう。この人の曲は、世界中でビートルズよりたくさんレコードを売っているので、
彼は文句無しに、ポピュラー音楽史上最高の作曲家の一人と言っていいだろう。
その名はこうだ。
アントニオ・カルロス・ジョビン。
この人は、ブラジルでは国民的英雄だ。何しろ空港に、この人の名前がついているくらい
だから。普通空港には、ドゴールとかJ.F.ケネディとか、その国の歴史に残る政治家の
名前がついているものだが、なかなかブラジル人は粋なことをする。
個人的な話をすれば、僕はF1のセナの死より、ジョビンの死の方がよほどショックだった
(セナのファンの方、ごめんなさい)。まあセナも国民的英雄で、ブラジルは国を挙げて
3日間服喪したそうだが。
以前ジョビンが来日したとき、「何で行っとかなかったんや!」と、激しく後悔して
しまった。まあその頃は、素晴らしさが分かっていなかったというのもあるが。
「イパネマの娘」は、ボサノヴァ史上のみならず、ポピュラー音楽全体の史上に残る
大名曲だ。この曲は '63年に、ジョビン自身らの歌と演奏で世界中で大ヒットし、
ボサノヴァは世界へと広がって行った。
このあたりのボサノヴァの歴史については、初心者の方にはこの本をお勧めする。
ボサ・ノヴァが流れる午後 大島守著 中央アート出版社
この本を読めば、ボサノヴァ史の概略はつかめるだろう。ユーミンさんや小野リサさん
から始まって、実に分かりやすく書いてある。装丁もおしゃれなので、女の人には特に
お勧めだ。
まあジョビンがいなくてもボサノヴァは有ったかも知れないが、彼がいなければ
ボサノヴァは、ここまでメジャーになる事は無かっただろう。と僕の意見を述べて、
とりあえずジョビンの話は終わる。
どうも話がそれる。再び話を、「イパネマの娘」に戻そう。このアルバムは、
「小舟」(原題は " O Barquinho " )という曲から始まる。
この曲は、珍しくロベルト・メネスカルと言う人のペンになるものだ。まあこの曲も、
ボサノヴァの名曲の一つと言っていいだろう。
ロベルト・メネスカルという人は、ナラ・レオンの生前にはともに活動していた
ギタリストだ。「イパネマの娘」は、ロベルトと3人の日本人ミュージシャンが
バックを勤めている。ロベルトは今では、ワンダ・サーというシンガーと一緒に
やっている。
このワンダ・サーの、下記のアルバムもお勧めだ。
私と音楽 ワンダ・サー&メネスカル ポリグラム株式会社
お勧めポイントは、ガットギターにこだわらず、エレキギター(と言ってもうるさくない
音の)をソロ等で多用したりとか、「イパネマの娘」より現代的な感覚のアレンジで、
ボサノヴァの初心者の方の耳に入りやすそうな所だろう。もちろん名曲もいろいろ
入っている(「イパネマの娘」ほどではないが)。
そう言えば、僕の知人の自称「本物のジャズファン」が、こんな事を言っていた。
「マリーンの歌うジャズなんかジャズじゃない」と(マリーンさんのファンの方、僕が
言ったんじゃないんで許して下さいね)。
しかし僕には、どうもその違いが分からない。多分僕のような、多少ジャズを聴きかじる
程度の人間には、サラ・ヴォーンとかエラ・フィッツジェラルドとかのいわゆる「本物の」
ジャズよりも、ある程度モダンな感覚にアレンジされたジャズの方が、耳に入りやすいと
いう事だろう。
そういうわけで、初心者の方にはむしろ「私と音楽」のほうがよかったかも知れぬ。
ゴメンナサイ。
ちなみにこのアルバムの発売元は、"Zico Label" (ジーコ・レーベル)という所だ。
そう、あのサッカーのジーコがはじめた会社である。「いい音楽を発掘するため」と
いうことで始めたようだ。ジーコという人、ただのサッカーバカではない、なかなか
偉い人である。代表監督もどうか頑張って下さい。
声的には、ボサノヴァとしてはオーソドックスではない、比較的ねっとりした歌い方だ。
ナラ・レオンがざるそばなら、ワンダ・サーはスパゲッティという所だろうか。まあ好みが
分かれるところかも知れぬ(僕はどちらも好きだが)。
それでは、Have a good bossa life!